旧日産系の構造疲弊
旧日産自動車系列のメガサプライヤー、マレリ・ホールディングス(旧カルソニックカンセイ)は2025年6月11日、米連邦破産法第11条(チャプター11)に基づく再建手続きの申請を発表した。これは、日本の民事再生法に相当する手続きである。
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マレリはこれまで、大株主の投資ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)や、みずほ銀行、国際協力銀行(JBIC)などから支援を受けて経営再建を進めてきた。しかし、日産やステランティスの業績低迷により資金計画に狂いが生じ、資金繰りが急速に悪化した。
5月26日に開かれた債権者集会では、インドの自動車部品大手マザーサン・グループによる私的整理案の協議が難航。調整がつかず、法的整理に踏み切ったとみられる。
本稿では、日産の経営危機を起点とするマレリの苦境を検証する。マザーサン傘下への移行が現実味を帯びるなか、日本の自動車産業に及ぼす影響とその連鎖を読み解く。
日産依存が招いた経営危機
マレリは1938(昭和13)年に日本ラヂヱーター製造として創立された。自動車用ラジエーターで高い市場シェアを誇り、1988年にカルソニックへ社名変更した。2000(平成12)年には日産系のカンセイと合併し、カルソニックカンセイとなった。2019年に現在のマレリへと商号を変更している。
2022年6月、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約1兆2000億円に達し、日本の製造業として過去最大規模となった。直近3年間で2度目の経営破綻という異例の事態だが、一連の破綻は偶発的ではなく、構造的な連鎖の結果とみられる。
前身のカルソニックカンセイは2017年、日産の連結子会社から米投資ファンドKKR傘下に移った。2019年にはイタリアの自動車部品メーカー、マニエッティ・マレリと経営統合し、世界の自動車サプライヤー売上高で第7位に浮上。日本発のメガサプライヤーとして大きな期待を集めた。
しかし構造改革の遅れや日産の減産、さらにコロナ禍が追い打ちをかけて業績は急速に悪化した。戦略判断の誤りが積み重なり、企業体質は徐々に弱体化した。
マレリの売上高の約3割は日産との取引が占める。カルソニックカンセイ時代は売上の8割を日産に依存していたとされる。過度な日産依存が事業ポートフォリオの偏りを生み、収益モデルの脆弱性が経営リスクとして顕在化した。
2900社に及ぶ取引先構造
旧日産系列のカルソニックカンセイとイタリアの伝統企業マニエッティ・マレリの統合は、当初からシナジー不全が指摘されている。日本企業の慎重な意思決定や現場調整と、欧州型のイタリア企業の組織文化の違いが大きな障壁となった。
両社はともに電装部品をコア事業とし、冷却系、排気系、内装部品などで製品ポートフォリオが重複していた。期待されたスケールメリットは発揮されず、かえって効率低下を招いた。
工場の立地は日本と欧州に過密状態で、拠点間の調整や調達戦略に非効率が目立った。さらに日産とステランティスへの顧客依存が強く、価格交渉力の低下と収益の脆弱性を助長している。
東京商工リサーチによれば、マレリグループの国内取引先数は重複除き2942社にのぼる。そのうち売上高10億円未満の企業が約3割を占める。特に中小企業が多く、技術力で差別化できる企業は少ない。マレリ依存の経営体質から、キャッシュフローに余裕のない取引先も多い。旧日産系列の企業も含まれ、日産依存からの脱却が進まなかったことも痛手だ。
取引先は全国45都道府県に広がる。最多は東京都の877社で、神奈川県、愛知県、大阪府、埼玉県が続く。マレリ子会社のある福島県や大分県でも多い。秋田県と高知県を除く全国に広がる裾野の広さが特徴だ。
広範な自動車部品サプライチェーンを通じて、再編や淘汰の波が地域経済に波及する可能性が高い。首都圏や自動車産業の集積地である東海、九州だけでなく、全国的な影響が懸念される。
再建社、グローバル44か国展開
前述のとおり、マザーサン・グループがマレリ再建に名乗りを上げた。
同グループは1975年、ヴィヴェク・チャンド・セーガル会長によって設立された。1977年からワイヤーハーネスの生産を開始し、1986年には住友電装との合弁会社を設立して日本の自動車メーカーとの取引を開始した。1993年にインド証券取引所に上場し、資金調達力を強化。過去20年間で43件のM&Aを実施している。
2024年の売上高は9869億インドルピー(約1兆6600億円)で、前年同期比25%増を記録。主要取引先にはメルセデス・ベンツ、アウディ、フォルクスワーゲンなど欧州の自動車メーカーが名を連ねる。
製造拠点は世界44か国に展開し、グローバルな自動車メーカーのニーズに対応している。さらに、M&Aを通じて製品ポートフォリオの拡大を進めている。2023年にはホンダ系列の八千代工業から燃料タンク・サンルーフ事業を、市光工業からミラー事業を買収し、日本の自動車メーカーとの取引も拡大している。
マザーサンによるマレリ買収が実現すれば、日本の自動車産業における存在感は一段と強まる。電動化対応の強化に加え、ステランティスなど欧州自動車メーカーとの取引拡大も期待される。売上高は世界の自動車部品メーカートップ10に入る規模になると予想される。
事業選別と分社化の波紋
マザーサンによるマレリ買収が実現すれば、まず拠点の見直しが進む。設備稼働率の低い地域、特に人件費や固定費が高い日本や欧州の生産拠点は再編対象となる可能性が高い。
一方で、生産効率が高く、現地調達や輸送インフラに優れた中国やASEAN諸国への機能移転は既定路線に近い。マザーサンは世界44か国に製造ネットワークを展開しており、地政学リスクや貿易摩擦の影響を分散しつつ、部品供給の柔軟性を確保することが今後の競争力の鍵となる。
統廃合と並行して、マレリ内部の事業選別も加速する。冷却・排気・内装系の事業で、マザーサンの既存ポートフォリオと重複する分野は、資産集約や外部譲渡、段階的撤退も視野に入るだろう。とくにインストルメントパネルやワイヤーハーネスはグループ内で整理統合が進み、独立採算制の強化を前提に分社化や再編が検討される可能性がある。
調達戦略にも影響が及ぶ。グローバル資本が支配する製造業では、価格と納期を基準に選別が常態化している。国内に多く存在する中小規模のティア2以下のサプライヤーは、従来の取引関係に依存した営業モデルの再構築を迫られる。製造技術や開発力に特化しない業者はリスクが顕在化しやすい。
さらにマザーサンは自社開発に固執せず、グローバル市場で確立された外部製品をモジュール単位で調達する傾向が強い。この方針がマレリにも波及すれば、日本的な長期安定供給の系列取引は転換点を迎える。日産との関係はすでに形式的であり、長期的には供給関係の見直しや縮小が避けられない。かつての系列供給網は機能不全に陥り、新たな連携モデルの模索が始まっている。
電動化軸の事業再編戦略
こうした動きは、日本の自動車産業に長年形成された供給網の構造変化を促す。従来の輸出主導型成長とは異なり、新興国企業が主導する製品開発や生産体制に日本企業が部分的に組み込まれる流れが強まる可能性がある。技術が一方的に輸出されるのではなく、海外の戦略に沿って逆流し再構築される局面だ。
マレリがこの転換期を乗り切るには、電動化を軸とした選択と集中が必須だ。将来市場の縮小が見込まれるエンジン関連部品など内燃機関依存製品は、縮小や撤退の議論対象となる。欧州メーカーとの取引継続についても、マザーサン傘下入りにより競争環境が変化し見直しが迫られる。一方で、マザーサンのネットワーク活用により、アジアを中心とした成長市場での機会は拡大する可能性がある。
重要なのは、短期的な数値目標やキャッシュフロー改善にとらわれず、再編後の事業環境で提供可能な価値を客観的に見極める視点だ。感情的判断や過去の成功体験に引きずられる対応は、変化のスピードに対応できないリスクをともなう。
マレリの再建に必要なのは、持続可能性を前提とした事業の再設計であり、その判断は国内外の雇用、地域経済、日本の部品産業全体に影響を与える可能性がある。
日本車産業の命運分岐点
マレリにとって、マザーサンによる買収は救済策となる可能性がある。一方で、日本の自動車産業にとっても支えとなるかもしれない。
マザーサン主導の経営環境では、合理性が最優先され、迅速かつ厳しい経営判断が求められる。非情な決断が避けられない局面も想定される。その決断は、
・日産などの主要顧客
・全国に広がるサプライチェーン
・マレリの従業員
に及ぶ可能性がある。淘汰の序章はまだ始まったばかりだ。マレリが再建を果たす道筋は未知数である。
マザーサンによる買収は、日本の自動車産業の持続可能性を見極める重要な転換点となるだろう。(三國朋樹(モータージャーナリスト))
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みんなのコメント
しかもそれで破綻とかマジ経営陣終わってんな
分かるんだけど、だけど違和感あるんだよな。
マニェティ・マレリは1891年にイタリアで創業した電気器具メーカーが源流で、1919年にフィアットの出資を受けて独立した電装品メーカーだ。2019年に、カルソニックカンセイに買収・統合された。
名前のマレリは2019年までラヂエター屋とは無関係で、イタリアの創業者の名前なんだよな。